名古屋地方裁判所 平成8年(わ)1212号 判決 1996年10月16日
裁判所書記官
小久保重俊
本籍
名古屋市南区東又兵ヱ町四丁目四番地の五
住居
同所同番地
無職(元会社役員)
今村堅三
昭和一二年一月二日生
右の者に対する所得税法違反被告事件について、当裁判所は、次のとおり判決する(公判出席検察官名倉俊一。弁護人宮嵜良一、同村上玄純、同鈴木顯藏)。
主文
被告人を懲役一年及び罰金八五〇万円に処する。
右罰金を完納することができないときは、金一万二〇〇〇円を一日に換算した期間(端数は一日に換算する。)
被告人を労役場に留置する。
この裁判確定の日から三年間右懲役刑の執行を猶予する。
理由
(罪となるべき事実)
被告人は、産業廃棄物処分等を目的とする株式会社シミズの従業員であり、かつ、産業廃棄物処分等を目的とする江州産商株式会社の取締役であったが、自己の所得税を免れようと企て、不動産業者日比清から株式会社シミズが購入した不動産の売買等をめぐり、右日比から支払いを受けた謝礼金等を他人名義あるいは、他人の住所を自己の住所と偽って開設した預金口座に入金するなどの方法により所得を秘匿した上、
第一 平成五年分の実際総所得金額が六九三七万三五五〇円であったのに、平成六年三月一五日、名古屋市熱田区花表町七番一七号所在の所轄熱田税務署において、同税務署長に対し、平成五年分の総所得金額が一四三七万三五五〇円で、これに対する所得税額は源泉徴収税額を控除すると二二万三一〇〇円である旨の虚偽過少の所得税確定申告書を提出し、もって、不正の行為により、同年分の正規の所得税額二七〇二万四九〇〇円と右申告税額との差額二六八〇万一八〇〇円を免れ、
第二 平成六年分の実際総所得金額が三〇四一万二一二〇円であったのに、平成七年三月一五日、前記熱田税務署において、同税務署長に対し、平成六年分の総所得金額が一四四一万二一二〇円で、これに対する所得税額は源泉徴収税額を控除すると三七万一七七二円の還付を受けることとなる旨の虚偽過少の所得税確定申告書を提出し、もって、不正の行為により、同年分の正規の所得税額五九五万五〇〇〇円と右申告税額との差額五九六万六七〇〇円を免れ、
第三 平成七年分の実際総所得金額が二三八九万九〇〇〇円であったのに、所得税の納期限である平成八年三月一五日までに前記熱田税務署において同税務署長に対し所得税確定申告書を提出しないで、納期限を徒過させ、もって、不正の行為により、同年分の所得税三四三万七七〇〇円を免れ
たものである。
(証拠の標目)
括弧内の記号番号は、検察官請求証拠の記号番号である。検察官に対する供述調書は「検察官調書」、大蔵事務官に対する供述調書である質問てん末書は、「大蔵事務官調書」と記載する。
判示事実全部について
一 被告人の当公判廷における供述
一 被告人の検察官調書五通(乙17ないし21)及び大蔵事務官調書三通(乙1ないし3)
一 清水善一(謄本。甲10)、清水峯子(甲12)、今村政子(甲13)及び坂本恵子(甲14)の各検察官調書、
一 丹下シズ子の大蔵事務官調書(甲15)
一 検察事務官作成の捜査報告書二通(甲18、20)及び写真撮影報告書(甲19)
一 名古屋貯金事務センター所長作成の通常郵便貯金預払状況調書(甲4)
一 登記官作成の履歴事項全部証明書二通(甲16、17)
判示第一、第三の各事実について
一 日比清の検察官調書(謄本。甲8)
判示第一の事実について
一 被告人の検察官調書四通(乙6ないし9)
一 日比清の検察官調書三通(各謄本。甲5ないし7)
一 大蔵事務官作成の証明書(甲2)
判示第二の事実について
一 被告人の検察官調書二通(乙10、11)
一 日比清の検察官調書(謄本。甲9)
一 大蔵事務官作成の証明書(甲3)
判示第三の事実について
一 被告人の検察官調書三通(乙12ないし14)
(法令の適用)
一 罰条 判示第一ないし第三の各所為につき、それぞれ所得税法二三八条
二 刑種の選択 判示各罪につき、いずれも懲役刑及び罰金刑を併科
三 併合罪加重 刑法四五条前段のほか、懲役刑につき、更に同法四七条本文、一〇条(犯情の最も重い判示第一の罪の刑に法定の加重)、罰金刑につき、更に同法四五条前段、四八条二項(各罪所定の罰金額を合算)
四 労役場留置 刑法一八条
五 刑の執行猶予 懲役刑につき、刑法二五条一項
(量刑の理由)
本件は、被告人が勤務する会社の土地取引を仲介した不動産業者から、平成五年九月から平成七年一二月までの間に、右土地取引に関して尽力した謝礼金等の名目で七回にわたり現金合計八一〇〇万円を受領しながら、これを生活費以外の個人的欲望を満たす資金に充てるために、他人の名義を借用した預貯金口座に預け入れて秘匿し、三年分の所得税合計三六二〇万円余りをほ脱した事案であり、ほ脱額が多く、ほ脱率も高いから、その刑事責任は軽視できない。
しかし、被告人は、業務上過失傷害罪で罰金刑に処せられたほかには、前科はなく、本件により初めて逮捕勾留され、自己の行為を真摯に反省している。そして、修正申告をして右三年分の所得税の未納分を完済したほか、延滞税及び重加算税もすべて納付し、周囲の者も被告人の更生に協力することを申し出ている事情もある。
そこで、以上の事情を総合して、主文の刑を量定した上、特に懲役刑の執行を猶予することとする。
(裁判長裁判官 三宅俊一郎 裁判官 長倉哲夫 裁判官 岩田光生)